風だけが友達だった…
ある日の街角で、ふと目にとまった古いカワサキW3。
1973年製と思われる。
バーチカルツインエンジンの乾いた鼓動と、
スポークホイールの光が、心の奥にひとすじ差し込んだ。
そばにいたオーナーは二十代の後半か、
せいぜい三十代のはじめ。
その姿に、世代を超えて息づく魅力を感じた。
一方で、ずっと昔の職場の休み時間を思い出す。
「カワサキがさ」なんて熱く語っていたら、
いつの間にか隣にいた川崎さんに睨まれて──
あの時の空冷エンジンの風より冷たい沈黙が降りた。
思い出すたび、少しだけ笑えてくる。
あの頃の私は、風だけが友達の、
どこか仮面じみたライダーだった。
憧れのW3のオーナーになる夢は、やがて叶った。
けれど「彼のオートバイ、彼女の島」
みたいな物語にはならなかった。
女性を誘う勇気もなく、
タンデムの甘美に耽ることもなく、
運転技量にも自信が持てず、ただひたすらソロで
走り続けた。
風だけが寄り添っていた。
そして私のバイク人生は静かに終わった。
──ただし、免許だけはまだ返していない。
ラベル: 日記
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