誠に勝手ながら、今日も明日も明後日も——あなただけを
誠に勝手ながら、今日も明日も明後日も——
僕は、静かな夜へ移行いたします。
それは業務のためでも、体調のためでもない。
ただ、誰にも属さずに過ごすための、
僕なりの手続きです。
「誠に勝手ながら、明日は業務があるため、
今から静かな夜へと移行させていただきます」
若い彼女からの
「今度カラオケ行こうよ」に対して、
僕が返すのは、そんな通知のような一文。
断り方に優しさも配慮もない。
たぶん僕は、ピントの合わない男なのだ。
若い子とカラオケに行くと、
彼女が選ぶのは——
言葉が詰まりすぎて、息継ぎの場所を失った曲ばかり。
誰かの痛みを、別の痛みで覆うような旋律が、
部屋の隅々まで染みていく。
僕はただ、風のようなイントロを待つ。
空気が澄み、音が立ち、言葉が届く瞬間を。
そしていつものように、
あおい輝彦の「あなただけを」を選ぶ。
イントロが流れた瞬間、空気がすっと澄む。
まっすぐで、潔くて、どこか懐かしい。
けれど彼女はスマホをいじりながら、
「ちょっとトイレ行ってくるね」と言う。
その背中に向かって、僕は歌い続ける。
「あなただけを」─
同世代の女性なら、
「懐かしい〜!」と笑ってくれるだろう。
けれど同世代は、なぜか「あなただけに」なりたがる。
一人の人に決めてしまうと、
僕の余白は、鍵をかけられてしまう。
若い子と偶然、カラオケ以外で遊ぶこともできなくなる。
僕はただ、
「あなただけを」歌いたいだけなのに。
でも——若い子もダメ、同世代もダメ。
結局、僕の居場所は、
モニターに映るあおい輝彦の顔だけ。
おやすみ、野菜。
今夜も僕は、誰にも届かない歌をうたう。誠に勝手ながら、これからも一人でいたいので、
そっと眠らせていただきます。
誠に勝手ながら、今日も明日も明後日も——
僕は清々しさだけを歌いながら、
誰にも届かないまま、眠らせていただきます。
ラベル: 好きな音楽




