PayPayがまだ聞こえなかった頃の、やわらかな時間
──「いただきました…」の女性
──あのレジの光景に、もう一度
最近、セルフレジがずいぶん増えた。
白く光るセンサーに、ピッ。
客の私が、律儀に購入したものをひとつずつ読み取る。
ただの流れ作業。
そこに、人の温度はほとんどない。
かつて、レジには小さな人間模様があった。
だから今の味気なさが、ひどくさみしく感じられる。
今日は、そんなレジスターがまだ人の顔をしていた頃、
私が足繁く通ったドラッグストアのことを
思い出してみたい。
通い出した理由は単純だった。
ストロングゼロが、他より格段に安かったのだ。
当時の私は、ひどいアルコール依存。
ストロング缶500mlを、一日三本、時には六本。
店員たちはきっと私を
「危ない客」と思っていたことだろう。
カード決済で横柄な態度をとる人もいれば、
なぜか含み笑いを浮かべる人もいた。
――卑猥な英語ロゴのTシャツなんか着ていた、
私のせいかもしれない。
そんな、決して心地よいとは言えない風景の中で、
ある日、不意にほんわかする女性と出会った。
彼女は、どこか丸みを帯びた人だった。
脚が少し悪いのか、歩き方がぎこちない。
左右に、わずかに揺れるように歩く。
その様子を見るたび、支えてやりたくなる――
そんな衝動を、すぐに笑いで打ち消した。
けれど、そのぎこちなさが胸に残った。
彼女のレジでのカード決済は、
いまのセルフレジや「PayPay!」
の大声とは、まるで別世界だった。
チェックを終えると、
「◯,◯◯◯円になります」
澄んだ声で、はっきりと。
耳の悪い私にも、すっと届く声だった。
私はカードを渡す。
彼女は左手でそれを控えめに受け取り、
ゆっくりと差し込む。
乾いた電子音。ピピピッ。
そして、指を揃えた右手を静かに差し出し、
小さな口元から、やわらかくこぼれた。
「はい、いただきました…」
その言い方が、なんとも心地よかった。
まるで「こちらへどうぞ」と案内されるようで。
気づけば私は、その声をもう一度聴きたくて、
アルコール以外のものまで買うようになっていた。
スナック菓子、ゴミ袋、惣菜パン――
在庫は十分にあるのに。
レジは三台。三人の女性。
もちろん、いただきましたの彼女も。
順番を待ちながら、私はいつも胸が高鳴った。
中学生かよ、と自分に突っ込みながら。
けれど、彼女にあたることは一度もなかった。
人生は、思い通りにはいかないものだと、
あのドラッグストアで学んだ。
それでも私は、「いただきましたの声」を求めて通った。
店内を一回りして、いなければがっかり。
くだらないけれど、そんな繰り返しが妙に楽しかった。
――今月、Softbankユーザー向けに
「クリエイト10%オフ」クーポンが出た。
いまの私は、アルコール依存の治療も落ち着き、
純アルコール量20gの日があり、
休肝日も作れるようになった。
右手の震えは消え、
左手ももう少し――と医者に言われるほどになった。
だから、久しぶりにあの店に行った。
PayPayが使えるようになったか、確かめに。
けれど、レジから聞こえてきたのは――
情緒も風情もない、大きな声だった。
「ペイペイっ!」
その声に押し出されるように、
私はau PAYのカードで決済し、
レジの前を後にした。
もちろん、あのいただきましたの女性には会えなかった。
期待というのは、しない方がいいのだろう。
けれど――
あの声に、また出会えたら。
そんな思いを、小さなポケットにしまったまま、
今日も、暮れていく。
――うなぎ〰︎
Pay Pay Pay♫
シュンカドー
※以上、2024年12月のSoftbankユーザー
向けクーポン配布をもとにした小さな戯れ。
ラベル: 長い文章


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