街と記憶のあいだで
街を歩いていて、
どうしても思い出せない場所がある。
昔、たしかそこに
マクドナルドがあったような気がしていた。
そう思い込んで、しばらく立ち止まった。
けれど、どうも違う。
正確には、
マクドランドという名前の店だった。
いま考えれば、
ファストフードではなく、
もっと夜寄りの場所だったはずだ。
名前だけが似ていて、
記憶の中で、いつのまにか
都合よく置き換わっていたらしい。
角だったのか、
少し奥まっていたのか。
入口がどちらを向いていたのかも、
もうはっきりしない。
街並みが変わったせいなのか、
それとも、こちらの記憶が
先に摩耗したのか。
どちらとも言えない。
写真を撮りながら歩いている。
記録というより、
確認作業に近い。
ファインダーを覗くと、
肉眼よりも、少しだけ
世界が整理される。
余計なものが切り取られ、
「見ている」という行為だけが残る。
最近、視界がやけに澄む日がある。
冬の光のせいなのか、
それとも、単に
目が疲れているだけなのか。
遠くはよく見えるのに、
近くのものがぼやける。
歩幅も、いつのまにか
短くなった。
昔なら、
この通りをどれくらいで
抜けられたかを、
無意識に測っていた。
いまは、距離よりも、
途中で腰を下ろせる場所を
探している。
それでも街は、
こちらの事情など関係なく、
淡々と更新されていく。
名前の変わった建物。
用途の分からない空き区画。
どこかで見た気がするが、
確証のない風景。
思い出せないことが増えた分、
見えてくるものもある。
写真を撮るのは、
懐かしむためというより、
「いま、ここに立っている」
という事実を残すためだ。
モテたかったな、と思う瞬間が
まったくないわけではない。
ただ、その感情も、
街と同じで、
もう急がない。
名前を思い出せない場所の前で、
少し立ち止まり、
シャッターを切る。
それで、今日は十分だと思っている。
ラベル: 長い文章

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