吃音障害(エアロビクス)
イアロビック。
いあろびっく。
クッビロアイ。
そんなふうに口がもつれて、
誰に会っても私は、
名前のわからない風の音みたいに喋っていた。
ずっと標準語だと思っていた
「イアロビック」が、
じつは私だけの方言めいた思い違い――
その事実は、ある日の
とある人のひと声で、ふっと明るみに出た。
正しくは、エアロビクス。
えあろびくす。
スクビロアエ。
三度書き取りをしたみたいに
ゆっくり頭に刻み込んだつもりだったが、
舌だけは、どうにも昔の癖に手を引かれる。
そして、また
イアロビック。
相手の「イヤー」な顔ではなく、
その耳――ear――に
私の発音がそっと落ちていく。
呆れたようなまなざし、
「学ばない人だね…」という
あきらめの混じった声色。
学べないのではない。
ただ、言葉がうまく
私の口の形に馴染んでくれないだけだ。
説明しようとするほど、
さらに出口が狭くなる。
今日も、明日も、明後日も。
特定の誰かとは
たぶんケッシテ巡り会えないまま、
一期一会だけが
くるくる回っていく。
それでも、地球だけは
変わらずにまわり続けている。
――まるで、
言葉の届かない私を
やさしくフォローするように。
ラベル: 長い文章

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