2/04/2025

廃墟の鳩と、ヨーカドーの白い影


   今夜はGS──いや、ガソリンスタンドではない。
ふと胸の奥で、グループ・サウンズの残響がゆらぎ、
気づけば「廃墟の鳩」を聴きたくなっていた。

古いアルバムをめくると、店先を写した一枚が出てきた。
あの頃、ヨーカ堂から鳩のマークが消え、
7&iのロゴだけが取り残されていた短い季節のことだ。
店は変わらずそこにあるのに、
街の空気だけがどこか薄く、
輪郭のぼやけた白さが漂っていた。
思い出すのは、建物の縁から
ふわりと飛び立った一羽の白い鳩。
その記憶は、まるで二階、三階、
五階と誤解まで入り混じるほどに曖昧なのに
その白さだけはやけに鮮やかに残っている。

そして今、鳩はロゴにも、店先の現実にも戻ってきた。
ヨーカ堂の柱の縁で、「ここが定宿だ」
と言わんばかりの顔つきで羽を休めている。

写真を並べてみると、鳩のいなかった頃と、
戻ってきた今とでは、店がまとう気配がまるで違う。
ロゴひとつで、街の温度まで変わって
しまうのだから、不思議なものだ。

そんな写真を眺めているうちに、
中学一年のあの日を思い出した。
三分間スピーチという無茶な企画。自分の番が来て、
頭の中が真っ白になり、最後に
すがったのがザ・タイガースの「廃墟の鳩」だった。

アカペラで歌い出した瞬間、教室がざわめいた。
先生もクラスメイトも、意外な選曲と、
勢いだけで踏み出した自分をおかしそうに笑った。
あれはいまでも、小さなポケットの奥にしまった
青春の欠片として、静かに息をしている。

看板に鳩が戻ったという事実が、
その記憶とどこか重なる。
街の色彩がひとつ、
そっと息を吹き返したように思えるのだ。

鳩のマークが戻った店先を横目に、白い影にごくわずか、
あの頃の自分を重ねてみる。
静かに「廃墟の鳩」を思い浮かべながら。

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