2/01/2025

耳を塞いだまま、街は変わっていた

 
   久しぶりに静岡駅近くのガストへ寄った。
注文用タブレットに「猫さん到着」の通知が浮かぶ。

なんでも可視化されて、
機械が教えてくれる時代になった。
その文字を見た瞬間、ふと、
ある午後の情景がよみがえった。

店内の少し離れたテーブル。イヤホンで耳をふさぎ、
スマホに沈み込んだままの女性。
その前で、所在なげに立ちつくす「猫さん」─

猫さんは、何度かそっと視線を送っていた。

「ねえ、こっちを向いてよ」と、
肩ごと話しかけるように。

けれど彼女は気づかない。
そこに見えない膜でも張られているようだった。

私は、ただ見ていた。
助けなくて済む距離を、どこかで保っていた。

──つめたいな。そう思いながらも、
もう咄嗟に声をかけられる年齢
でもなくなった気がしていた。

話が短すぎるのも芸がないので、少し寄り道をしよう。
(15年前の写真)

(現在の写真)
青葉シンボルロードで、15年前と同じ構図で写真を撮った。
写っているのは木と歩道と街灯だけ。
けれど、その中にこそ確かな「減り」があった。

静岡の街は、どこか薄くなった。
喫茶店も古本屋もレコード屋も、気づくと消えていた。
街の明かりは減り、人通りは静まり、
残ったのはガストとサイゼリヤ――そんな印象さえある。
安くて明るいのに、どこかしんとしている。

店内ではエアーポッズを耳に埋めた若者が、
無言でハンバーグをつつきながら動画を見ていた。
──これを「外食」と呼べるのだろうか。

せっかく街に出ても、
音も気配も、スープの湯気すら届いていない。

その足で「オマチ」を少し歩いた。
最近、ガールズバーがやたらと増えている。
以前はほとんど見かけなかったのに、
今では路地ごとの新顔みたいに並んでいる。

地元の観察者として、一度は見ておくべきかと思い、
社会見学のつもりで足を踏み入れた。

カウンターの向こうには、二十歳そこそこの女性たち。
会話とお酒が並ぶ、柔らかな空気。

けれどその途中に挟まれる
「一杯いただけますか?」
のひとことが、ふと現実へ引き戻す。
そこには癒しではなく、「値札の気配」があった。

若い男たちは、きっとそこに非日常を見るのだろう。
同級生とは違う、でも同級生のように
話しかけてくれる「女の子」─
それはたぶん、ちょっとした魔法だ。

でも私は、その魔法に入れなかった。
何を差し出せばいいのか、もう分からなかった。

街の片隅で、何者にもなれなかった自分だけが、
カウンターに置き去りになっていく気がした。

もし、こう尋ねられたら――

「昔の同級生に会いたいですか?」

私はきっとこう答える。
会わなくていいよ、と。

耳を塞いだまま、街は変わっていた。
気づくのは、いつも少し遅い。

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