1/28/2025

浪速手羽先と、飲んだ夜の約束──炭火焼きちんどん 静岡・昭和町


   葵区昭和町、江川町通り沿い。
白く塗られすぎた外壁が、街灯を
必要以上に跳ね返していた。
そのビルの一階に、「炭火焼きちんどん」がある。
これは、いまから十五年ほど前の写真だ。
フィルムではない。
たぶんミラーレスで撮ったのだろう。
細部はもう曖昧だが、それで十分だ。

浪速手羽先。
味わいは「世界の山ちゃん」によく似ていた。
舌先が少しだけ緊張する辛さ。
汗と食欲と、どうしようもない笑いが一緒にこぼれる。
本能のスイッチが音を立てて入る感じがした。

そして、間髪入れずにビール。
280円均一という値札に、財布より先に心がほぐれた夜。
「まずは、ちんどんで乾杯」
それが、いつしか仲間内の合言葉になっていた。

そこに行けば、誰かがいる。
顔を出せば、とりあえず笑ってくれる──
そんな景色が確かにあった時代だ。

山ちゃんがなぜ静岡に来ないのか。
風来坊より辛いあの味が、どうして
この街で定着しないのか。
理由はどうやら、家賃らしい。
地方都市が「都市らしさ」を保つための、
どこか皮肉な金額設定。

けれど、ちんどんはもう閉店している。
ビルはそのままでも、あの店の灯りはもうない。
友人たちと集まった場所が、静かに役目を
終えてしまったのだと思うと、
胸のどこかがすこしだけ空白になる。
思い出の場所がひとつ消えるたび、
街の地図がすこしずつ薄くなっていく気がする。

でも、あの夜の酔いが教えてくれたのは、
手羽先の再現性でも、店の事情でもなかった。

飲んだ勢いで交わしたような
くだらない約束を、
いまだに律儀に守ってくれる人がいる──
その事実だった。

そういう人は、たぶん信じていい。
酔いではなく、夜の奥行きの中で、
ちゃんと生きている人なのだと思う。

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