12/10/2024

風の途上で──能満寺山公園、五年ぶりの午後


   静岡県榛原郡吉田町。ふと思い立ってハンドルを握り、
能満寺山公園へ向かった。前に来たのは2019年10月だった。
位置情報の履歴が、その年月だけを無表情に示していた。
駐車場脇の小さな池に、数匹の鯉がいた。
水を切る気配だけを残しながら、ゆっくりと近づいてくる。
餌を期待していたのだろう。
手ぶらの私は、代わりにカメラを向けて一枚だけ撮った。
帰宅して見返すと、思った以上に写りがよく、
壁紙にすると部屋の空気がわずかに変わった。
前回は小山城の展望台へ一直線に登ったせいで、
能満寺の存在を知らずに終わった。
今回はようやく境内に足を踏み入れる。
片隅に一本、堂々としたソテツが立っていた。
古い木らしく、厚い葉が冬の気配を静かに受け止めていた。

木々の色づきは、先月の法多山
尊永寺を訪れた頃に比べて、
ようやく深みが出てきたように思う。
冷え込みはきつく、近場を季節ごとに巡る旅も、
今年はこれで締めくくりだと思った。
展望台への坂道では、左右に赤い葉が並んでいる。
「以呂波紅葉」と名札があった。
やや整いすぎた配置に見えたが、かえってその人工の気配が目に残った。

今日は20ミリ一本。すべてマニュアルで、
露出計の数字を頼りに明暗の境目を探した。
普段の街撮りでは風のように通り過ぎてしまうが、
ここには人影がほとんどなく、
立ち止まることが許されていた。

角度を変え、行ったり来たりして、
静かにシャッターを押す。
その時間だけ、身体が久しぶりに落ち着いた。
丁寧に写真を撮ったのは、九年前、
ある女性の誕生日イベントを頼まれて以来かもしれない。
四本のレンズを替えながら、着替えのたびに
構図を組み直し、
失敗できない緊張の中で撮り続けた。いま思えば、
撮影とは体力をじわじわ奪う仕事だと、あのとき知った。
空には綿菓子のような雲があったが、
露出を建物に合わせたせいで真っ白に飛んだ。
撮り直そうとは思わなかった。
雲の気配だけが残り、かえって静かだった。
指先が冷えてきて、そろそろ戻ろうと思った。
晩秋の旅は短かったが、余韻だけはしっかり残った。

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