風の途上で──能満寺山公園、五年ぶりの午後
静岡県榛原郡吉田町。ふと思い立ってハンドルを握り、
能満寺山公園へ向かった。前に来たのは2019年10月だった。
位置情報の履歴が、その年月だけを無表情に示していた。駐車場脇の小さな池に、数匹の鯉がいた。
水を切る気配だけを残しながら、ゆっくりと近づいてくる。
餌を期待していたのだろう。手ぶらの私は、代わりにカメラを向けて一枚だけ撮った。
帰宅して見返すと、思った以上に写りがよく、
壁紙にすると部屋の空気がわずかに変わった。前回は小山城の展望台へ一直線に登ったせいで、
能満寺の存在を知らずに終わった。
今回はようやく境内に足を踏み入れる。片隅に一本、堂々としたソテツが立っていた。
古い木らしく、厚い葉が冬の気配を静かに受け止めていた。
木々の色づきは、先月の法多山
尊永寺を訪れた頃に比べて、ようやく深みが出てきたように思う。冷え込みはきつく、近場を季節ごとに巡る旅も、
今年はこれで締めくくりだと思った。展望台への坂道では、左右に赤い葉が並んでいる。
「以呂波紅葉」と名札があった。やや整いすぎた配置に見えたが、かえってその人工の気配が目に残った。
今日は20ミリ一本。すべてマニュアルで、
露出計の数字を頼りに明暗の境目を探した。
普段の街撮りでは風のように通り過ぎてしまうが、
ここには人影がほとんどなく、
立ち止まることが許されていた。
静かにシャッターを押す。
その時間だけ、身体が久しぶりに落ち着いた。丁寧に写真を撮ったのは、九年前、
ある女性の誕生日イベントを頼まれて以来かもしれない。
四本のレンズを替えながら、着替えのたびに
構図を組み直し、
失敗できない緊張の中で撮り続けた。いま思えば、
撮影とは体力をじわじわ奪う仕事だと、あのとき知った。空には綿菓子のような雲があったが、
露出を建物に合わせたせいで真っ白に飛んだ。
撮り直そうとは思わなかった。
雲の気配だけが残り、かえって静かだった。指先が冷えてきて、そろそろ戻ろうと思った。
晩秋の旅は短かったが、余韻だけはしっかり残った。
ラベル: お散歩写真機















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