笑ってひらく、明治の口
静岡市駿河区。宇津ノ谷──
その谷間に、明治宇津ノ谷隧道がぽっかりと
口を開けていた。
訪れたのは、三年ぶりだった。
前回はたしかカメラを買い替えたばかりで、
性能を試すというより、
光と影の輪郭をもう一度確かめたかったのだと思う。
煉瓦の素肌めいた質感を、ただ真面目に写し取りたかった。今回も、思わず身震いする瞬間が撮れた。
ああ、高い買い物にも意味はあったのだ、と
ようやく腑に落ちる。トンネルの口は、
長い沈黙のあとにようやく笑みをこぼしたようにも見えた。
その表情がふと、昔の自分の顔を思い出させる。
そして気づく。
トンネルにはトンネルのチャームポイントがある。
陽を浴びながら、
何かを思い出してひとり微笑むような余裕があるのだ。ここは、いつの頃からか
「人間関係からの避難場所」として
密かに心の地図にマークしていた。だが今回は、逃げ込む必要さえなかった。
面倒なあれこれを、思いきって
リセットしてしまったからだ。
リセットには副作用がある。
風呂上がりの一杯すら、もう二ヶ月も遠ざかっている。
胸のあたりがむかつき、どうにも合わない。
もはやアルコールの身体ではない──
これはこれで幸運だ。
かわりに最近のご褒美といえば、
ハーゲンダッツではない甘ったるいアイスをときどき。
妙な忠誠心を感じるほど、しみじみうまい。
さて、撮影の話へ戻ろう。
周囲は薄暗く、どうにも速度が出ない。
それでもα6700の手ぶれ補正のおかげで、
三脚なしでも息をのむ一枚が撮れた。
銀塩の時代を知る身としては、ただ感心するばかりだ。平成トンネルを抜け、藤枝市へ。
坂下地蔵堂を横目に通りすぎると、
名前を借りるなら登り坂46の道が続く。慎重に進めば、つたの細道公園に着く。ふと、昔のfoursquareを開く。前回の訪問は2015年11月だった。
北海道犬の彼もここが好きで、
よく笑っていた。
その顔がひょっこり浮かぶ。……少し長くなったので、このあたりで。◆僕が冗談を言うと
世界は泣き、僕が泣くと世界は笑い出す──
中学の頃、Bee Gees の
「I Started A Joke」 を口ずさみながら、
自転車でここを訪れたことがある。
あの頃の陰気さも、今となっては愛おしい。動画編集のスキルはない。
それでも景色と音楽があれば、
脳内で完璧なプロモーションビデオくらいは
組み立てられる。
……ただ、パソコンの前に座ると、
どうにも現実はうまくいかないのだけれど。
ラベル: お散歩写真機




















