白物家電に覆われつつある
気がつくと、部屋が白物家電に囲まれていた。
家具は増えていない。
増えたのは、白くて無口で、やたら仕事熱心な連中だ。
昨日、女友達から大きな空気清浄機を無償で譲り受けた。
重い。でかい。存在感だけは堂々としている。
部屋に置いた途端、
「ここから先は私の担当です」とでも言いたげな顔をした。
デザインは正直いまひとつで、
経年の黄ばみも隠しきれない。
まるでエイジングケアを放棄した自分のようだ。
重くて、大きくて、黄ばんでいる。
空気清浄機を責めるより先に、
鏡を見るべきなのは、たぶんこちらだ。
築年数の古いアパートには、
「誰に聞いても問題ないと言われる匂い」がある。
本当だろうか。
実は自分の加齢臭を、
大人の気遣いで包み込んでくれているだけではないのか。
来客はみな、口をそろえて「気にならない」と言う。
それでも、どうしても自分だけが納得できない。
嗅覚の問題というより、
気分とか、心持ちとか、そういう曖昧な部分だと思う。最近は、加湿器に話しかけている。
湿度を聞くと、即座に返事が返ってくる。
しかも、こちらの声量でちゃんと拾う。
なぜか敬語になってしまうのが、自分でもおかしい。
人間相手なら、
こんなに素直な受け答えは、まず返ってこない。若い頃は「新人類」などと呼ばれていた。
それがいまでは、
家電の応答速度に感心している。
立派な旧人類である。SNSで自己主張をする元気は、もうない。
代わりに、家電をWi-Fiに繋いでいる。
承認欲求の向き先が、
だいぶ白くて無口な方向へずれた。
しかも彼らは、
用が済めば黙ってくれる。
これは自分のためというより、
飼っているヤモリのため、
ということにしている。
そう言っておくと、
多少は人としての体裁が保たれる。
そのうち家電のほうが、
自分より部屋の事情に詳しくなるだろう。
湿度も、空気も、
たぶん自分の機嫌まで。
人間は少しずつ鈍くなり、
機械はやけに気が利く。
どうやら、そういう年代に
静かに足を踏み入れたらしい。
ラベル: 長い文章




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