くまみねグッズ特選店 モナジアナ
三月から、渋谷のモディに
「くまみねグッズ特選店 モナジアナ」
がオープンしている。
私はもうしばらく、宿泊を伴うひとり旅をしていない。
最後に泊まりで出かけたのは、昨年十月の甲府だった。
それ以降は、無駄に面積の広い静岡と浜松が、
よく分からない因縁で火花を
散らしているこの土地から、ほとんど出ていない。
家の事情もあり、身軽に動ける状況ではなかった。
そんなある日、不意に電話が鳴った。
相手は気の置けない友人で、電話嫌いの私でも、
身構えずに出られる数少ない相手だった。
鼻歌まじりで出てみると、
「今、渋谷にいる」と言う。
正直に言えば、東京、とくに渋谷は苦手だ。
人も情報も多すぎて、身体の置き場が分からなくなる。
だが友人は、そういうことをまったく気にしない。
ひとりで東京を歩ける人間は、
それだけで立派なおひとりさま上級者だと思う。
友人はモディにいて、くまみねグッズ
特選店に立ち寄ったらしい。
ムジーナのハンドタオルや、腕組みできるムジーナ、
フード付きのブランケット。
私の好みを把握したうえでのお土産だという。
くまみねさんの人気は、電話猫、現場猫、
仕事猫と続いて、もはや説明が要らないほどだ。
私自身も、あの少し疲れたような、
アンニュイな画風にすっかりやられている。
今使っている寝具――枕、マットレスカバー、
敷布団カバーは、すべて仕事猫だ。
ようやく、好きなものに囲まれて
眠りたいと思えるようになった。
なぜ今さら、そんなことを思ったのかは分からない。
ただ、ぐっすり眠りたかったのと、
誰にも邪魔されない場所が欲しかったのだと思う。
精神的な安定剤を、いまだに手放せない身ではある。
その前のベッドは、とても人に
見せられるものではなかった。
掃除もせず、無気力な生活が続いていた。
以前住んでいた部屋は、設備だけは立派で、
来客も多かった。
今思えば、人は部屋の空気に正直だ。
引っ越してから、誰も来なくなった。
それでいい、と今は思っている。
ひとりには、すっかり慣れた。
今年の二月を過ぎた頃から、急に部屋を片づけたくなった。
連絡先だけでなく、部屋に残っていた
過去そのものを消したかったのかもしれない。
まずはベッドルームから手を付けた。
汗染みのある寝具を処分し、くまみねグッズで揃え直した。
すると、不思議と身体が動き出した。
キッチンも、リビングも、トイレも、浴室も。
十時間以上、ほとんど休まずに掃除をした。
その日、部屋から一歩も出ていないのに、
歩数計は一万八千歩を示していた。
六畳三間の2DKが、驚くほど広くなった。
空気が変わった、と感じた。
だから今日の渋谷からの電話も、
少しだけ運気が動いた証拠のように思えた。
友人は、私が一番ひどい時期にも離れなかった人だ。
残る人と、去る人。
それが分かっただけでも、
無駄な時間ではなかったと思っている。
ムジーナのブランケットは、
車の助手席に掛けてみようかと思う。
夜の運転が、少しだけ楽しくなりそうだから。
ラベル: 長い文章

<< ホーム