6/26/2024

高木人形─「ソレはよかった」の夜


   先週末、少し品のある酒場で飲んでいた。
会話の流れから、ふと昔のことを思い出し、
ぽつりと口にしてみたくなった。

地元の雛人形屋の娘と、若気の至りでつくった、
なんともいびつな関係があった。

今にして思えば大した話でもない。
けれど、その夜の私は珍しく素直で、
目の前の女性にそっと話してみた。

すると、不意に彼女が笑って言った。
「せっしゃ、タカギニンギョー!」

勢いづいたように、

「拙者も〜〜タカギィ〜人魚♪」

そして最後に、高らかに、

「ソレはよか〜ったぁ〜♪」

地元の人なら思い出せる、あのCMの節回しだ。
驚いたのは、その再現度の高さである。

彼女は見た目も仕草もいまどきで、
古風な気配などどこにもない。

それなのに、「拙者」の響きだけが妙に粗く、
昭和の時代劇に出てくる野武士の声のようだった。
その落差が可笑しくて、気づけば声を上げていた。

笑ったのは、本当に久しぶりだった。
自分でも驚くほど、すっと声が出た。
ここしばらく、日々はどこか乾いていて、
笑いから遠ざかっていた。
そのなかで落ちてきた軽い愉快さが、妙に胸に残った。

念のため書いておくが、昔のその娘は
「高木人形」の娘ではない。ただの連想にすぎない。

たいした話ではない。
それでも、ひとつ笑えたという小さな記録として
残しておく。

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