6/04/2019

ロンリーチャップリン──雨の記憶


   この唄を、僕は長いあいだ知らなかった。
覚えたのは、失業の季節──
ポリテクセンターに通っていた頃だ。

あの時期、なぜか人が集まった。
一次会のあと、古い飲み屋の二階へ上がり、
薄暗い部屋に、カラオケの画面だけがぽつんと浮かぶ。
そこで、この曲を聴いた。

失業者と、店のキャストが向かい合い、
互いの声を探るように重ねる。
遠慮がちなハモリが、ざわめきを吸い取って、
胸の奥で静かに響いた。
──ああ、いい曲だな。

季節は春。
桜がほころぶ頃の静岡は、雨が多い。
あの夜も、霧雨が街を薄くにじませていた。
宴のあとの通りが、ゆっくりぼやけていくような雨。

思えば、あれはまさに
「ロンリー・チャップリン」の夜だった。
晴れた空より、湿った暗がりのほうが、
この曲にはよく似合う。

あれから三年。
あの頃の仲間たちと、近いうちにまた顔を合わせる。
梅雨入りが近いと聞いた。
もし再会できるのなら、
二次会で、もう一度この曲を聴きたい。
できれば、また雨の夜に。

三年前──両替町の「鈴木雅之」と呼ばれた男がいた。
隣にいたキャストは、どこか鈴木聖美に似ていた。
ふたりの声が交わる一瞬、
僕らは、先の見えない気持ちを
そっと脇に置くことができた。
あの夜の湿り気を、いまもはっきり覚えている。
再会の夜が、どうか雨でありますように。

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