「いいじゃないの幸せならば」──
その曲が、ふいに流れてきた。
僕の立場は、ただの通りすがりだ。
腰を据えて聴くつもりもなく、
立ち止まる理由があったわけでもない。
それでも、耳にすっと入り込んでくる旋律は、
不思議と胸の奥を、静かに撫でていった。
昔、親父はこの歌のことも、
佐良直美さんのことも、
なぜだか毛嫌いしていた。
理由を訊いたことはない。
いまも、分からないままだ。
まあ、分からないでもない気はする。
けれど、それは歌のせいじゃない。
歌は、ただそこにあるだけだ。
まるで、夕方の光のように。
誰かを選ぶわけでも、
拒むわけでもなく。
そうして、もう一曲を思い出す。
「世界は二人のために」──
あれもまた、いずみたくさんの作曲だった。
歌は、作り手の手を離れ、
聴く人の胸のなかで、
何度でも息をする。
僕は、その脇で、
黙って見ているだけだ。
ラベル: 好きな音楽

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