2/03/2019

「いいじゃないの幸せならば」──

 その曲が、ふいに流れてきた。
僕の立場は、ただの通りすがりだ。
腰を据えて聴くつもりもなく、
立ち止まる理由があったわけでもない。

それでも、耳にすっと入り込んでくる旋律は、
不思議と胸の奥を、静かに撫でていった。

昔、親父はこの歌のことも、
佐良直美さんのことも、
なぜだか毛嫌いしていた。

理由を訊いたことはない。
いまも、分からないままだ。

まあ、分からないでもない気はする。
けれど、それは歌のせいじゃない。
歌は、ただそこにあるだけだ。

まるで、夕方の光のように。
誰かを選ぶわけでも、
拒むわけでもなく。

そうして、もう一曲を思い出す。

「世界は二人のために」──
あれもまた、いずみたくさんの作曲だった。

歌は、作り手の手を離れ、
聴く人の胸のなかで、
何度でも息をする。

僕は、その脇で、
黙って見ているだけだ。

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