Meditation──桜を前に、耳を澄ませて
この季節になると、どういうわけか
十数年前の春を思い出す。
あの頃、私はウクレレ教室に通っていた。
小さな部屋に、弦のかすかな振動と、
ボサノヴァのゆるいリズムが漂っていた。
課題のひとつが「Meditation」で、
指先がその流れに追いつかず、
家に帰ってからも、何度も弾き直した。
ジョビンの静かな旋律に、
アストラッド・ジルベルトの、あの乾いた声。
カーステレオや、まだ目新しかったiPodで、
繰り返し流していたのを覚えている。
アストラッドの歌い方は、囁くようでいて、
どこか距離を置くような冷たさがある。
けれど、その無造作な響きが残す小さな余白に、
当時の自分の戸惑いのようなものを、
いつの間にか、そっと滑り込ませていた。
桜は満開だったはずだが、
花の形よりも、
その前で立ち止まって耳を澄ませている
自分の姿のほうを、よく覚えている。
ラベル: 好きな音楽
