11/08/2015

From Russia with Love──そして、便所のほのかな余韻を添えて


   昨日、郵便受けに一枚の封書が落ちていた。

11月5日に受けた、
ポリテクセンター生産システム技術科の選考試験──
結果は、合格だった。

とはいえ、映画のような祝砲も、友人たちの胴上げもない。
そもそも私を宙に放り上げてくれる
腕の持ち主が、今の生活圏には存在しない。

だから、最低限の祝賀を選んだ。
ラジオ体操第一の「跳ぶ運動」を、八回だけ。
わずかに浮く身体に、控えめな実感がにじんだ。

その小さな跳躍だけで、胸の奥に
「最初の門をくぐった」という静かな重さが沈んでくる。

来月からは、見知らぬ教室と、見知らぬ人々。
不確かな未来に足をかけながらも、旅はもう動いている。

税金に支えられた再出発。
その事実の冷たさだけは、石のように心の底に残った。
それでも誠実に生きよう──
そう思い直したくて、
青葉シンボルロードの公衆便所に立ち寄った。

アンモニア臭が容赦なく鼻を刺す。
濡れたタイル、冷えた照明、古びた金属の取手。
人生の節目らしさなど欠片もない、
どこにでもある便所の風景。

その場末の空気の中で、突然、街角から
「From Russia with Love」が低く流れ出した。

ボンドのテーマが、湿った匂いと混ざりあい、
便所の片隅を、わずかに「シーン」のように見せる。
噛み合わない二つの気配が、
滑稽で、そしてどこか救いでもあった。

──From Russia with Love。

人生の節目は、ドラマティックな舞台を選ばない。
むしろ、こうした匂いの残る便所の扉の向こうから、
そっと開けてくることのほうが多い。

その匂いに、ほんのわずかな愛の余韻を添えて。

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