ニートかな?西野カナ──あの夜の話
気づけば、僕はいまニートになっていた。
その事実をどこか他人事のように受け止めていたある日、
ふいに昔のことを思い出した。
──西野カナに似た女の子がいた夜のことだ。
あの頃の僕は、キャバクラという
場所に醒めた視線しか向けられなかった。
割高で、どこか嘘くさい透明な時間。
普通に女友達と居酒屋で飲むほうがよほど健全だろう、と。
それでも、友人の押し切られて初めて入った。
薄い照明と、グラスの中で氷がほどける音。
何故かそれだけがやけに記憶に残っている。
彼女は、顔立ちは整っているのに、
グラスを持つ指先だけが荒れていた。
笑うと急に明るくなるくせに、
そこだけ現実の重みが滲んでいるように見えた。
数日後、どうにも気になってひとりで店に向かった。
理由はうまく説明できない。
あの指先を、もう一度見たかっただけだ。
けれど、
「カナちゃん、辞めましたよ」
その言葉だけが、やけに乾いた音を立ててで腑に落ちた。
いまになって思うと、
彼女のあの指先には、
僕のこれから落ちていく未来の影のようなものが
すでに映っていたのかもしれない。
シルバーウィークの真ん中。
外来の待合も、スーパーのレジも静まり返っている。
今日も僕は、古い2ちゃんねるのスレを読み返している。
「非リア」「ニート」「キモい」──。
誰かが投げた単語が、
名札みたいに今の自分に貼り付いてくる。
そういえば、伊勢海老というものを
僕は、一度も食べたことがなかった。
その事実よりも、
「ああ、そういう人生だよな」
と妙に素直に受け入れてしまう自分が、
少しおかしくて、ほんの少しだけ切なかった。
ラベル: 長い文章



