8/11/2015

うま味の魔法に誘われて


   この広告の笑顔は、
人の弱いところを全部知っている顔だ。
どんな願いも叶えてやる──
そんな魔法を信じさせてくる。

AJINOMOTOをひと振りすれば、
人生まで美味くなる気がしてしまう。

今日のしずてつストアで見つけた
「マグロのカレー風味」─。
カレー粉の衣をまとった切り身は鮮やかで、
まるで祭壇に供えられた宝石のよう。
なのにラベルには、無情の「加熱用」──。

そのまま食べられないなら、はい撤収。
──でも、未練は尾を引く。

一人暮らし時代は、
「こてっちゃん」を焼けば祝杯だった俺が、
フライパンでソテーなんて上等なことを
一瞬でも考えるなんて。

今日の暗さを和らげてくれたのは、
ほかでもない──スーパーという楽園だった。

とはいえ、
中年男がひとりで徘徊している図は、
やっぱりどうあっても絵にはならない。

唯一の自慢は、
酒も買わず、何も買わずに店を出たこと。
誘惑に勝ったのか、
それとも手が届かなかっただけなのか。

でも、スーパーは天国だ。
気温も匂いも、明るさも、
僕の味方でいてくれる。

しずてつストアはおばさま方の社交場。
タイヨーのレジには若い笑顔。
棚ごとに撒かれた呪文のような香りを吸い込みながら、
少しだけ救われる。

ふと、豚レバーが目に入る。
もう生では食べられない禁断の愉しみ。
鳥レバ刺しで細々と続く店があると聞く。

盆の喧騒に紛れて、久しぶりに寄ってみようか。
魔法がまだ、少し残っているうちに。

明日もたぶん、何も買わない。
それでも、きっとまた行く。
魔法が切れないうちは。

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