空のカップに、スマートフォンを挿す午後
カップホルダーが、ずっと空だった。
缶コーヒーを飲む習慣もない。
カップ麺も食べない。
ラーメンは、僕の舌に合わない。
だから、車内に並ぶホルダーたちは、
無言のまま、僕を見つめていた。
今日、そこにスマートフォンを挿した。
カップホルダーに固定するタイプの、車載ホルダーだ。
ようやく、僕の車に意味が生まれた。
両面テープでも吸盤でもない。
取り外しも容易で、
知り合いの車にも、そのまま使える。
一個あれば、事足りる。
それが、理想というものだ。五年前から、
スマホを車内に置きたいとは思っていた。
けれど、どこかで
「置くこと」そのものに、
意味を見出せずにいた。
それが今日、
空のカップの代わりに、
スマートフォンが挿さった。
午後の光が、ダッシュボードに落ちる。
ホルダーは、静かにスマホを支えている。
このホルダーは便利だ。
けれど、便利という言葉では足りない。
それは、空白に意味を与える装置だ。
無用の長物だったカップホルダーが、
ようやく役割を得た。
それだけで、
車内の構造が、少しだけ整った気がする。
都市の余白に立つ僕は、
今日、車内の余白を埋めた。
それは、ささやかながら、
確かな変化だった――
……なんてな。
ラベル: 長い文章


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