9/16/2014

月を待つベランダ、レザーの手触り

 Appleから届いたiPhone6のレザーケースを手にした瞬間、
思いのほか大きなその存在感に、眉が上がった。
かつては掌に吸い付くようだったスマートフォンが、
いつの間にかポケットの領分を飛び出したらしい。

世間では6 Plusが人気なのだという。
あれを片手で操る未来を、僕にはまだ想像できない。
無理に機種変更などしないほうがよかったかもしれない──
そんな弱気が背中をかすめる。
最新機能? 今夜の僕には関係ない。
光沢だけが先走る画面を眺めていたら、
不意に、どうでもよくなった。

ベランダに出て、月を探す。
だが、夜空は雲にくぐもっている。
湿気を含んだ暗さが、ビルの輪郭をぼかしていく。
その上に、沈黙した月だけがいる。

今年は171年ぶりに三度、名月を観られるという。
9月8日は逃した。次は10月6日、十三夜。
その夜、ここで静かにカメラを構える。
それだけで、この秋に意味が生まれる。

夏の歓びは、どこか不埒で喧しい。
秋の歓びには、静かな呼吸がある。
僕は、そういう季節に少し救われる。

ムーン・リバーを流す。
ヘンリー・マンシーニの旋律が、
雲の上にある輪郭を、ひそやかに照らす。

映画の中のオードリーは、
秋服が似合いすぎて、ため息を誘う。
真似をしてみよう、とは言えない。
けれど、その気配だけは盗めそうだ。

彼女の装いは、秋のヒントにもなる。
服に無頓着な僕が言うのだから、
なおのこと信用してほしい──なんて。

レザーの手触りを確かめる。
掌の温度がじわりと移る。
見えない月の光が、
ゆっくりと滲んでくる。

 *

雲の向こうで、
月だけが僕を待っている。

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