図々しさの刃先で身を整える
カラオケで谷啓の「図々しい奴」を入れると、
だいたい誰かがトイレに立つ。
場の空気が、するりと遠ざかっていく。
僕だけが、なぜか妙に高揚している。
身体のどこかが勝手に景気づいてしまう。
こういうところが、つくづくバカだと思う。
谷啓さんの歌が讃えるのは、押しの強さ──
人生をぐいと切り開く、あの図々しさだ。
けれど僕は、押す前にすぐ引いてしまう。
議論にも、世間にも、女性にも。
どうにも治らない、それが一番悔しかったりする。
剃刀にも負けっぱなしである。
せめて見た目くらいは整えようと、
朝の洗面台でトリマーを握る。
眉は六ミリ。眉間の陰りを淡くする。
口髭は三・五ミリ。
顎は四ミリ。二重顎の輪郭をなぞるように。
数字を味方につけて、強気の形だけ整える。
整えるとは、弱さの手入れだ。
見えないところほど、丁寧に。
やっぱり僕は、図々しくはなれない。
だから今日も、整える。
ウェブログの文章だけは、どうにも整わない。
いつもどこか散らかっている。
でも、それでいい。
谷啓さんの「ヤレヤレヤレェー」は、
整わない人生そのものへ向けた、
ゆるい喝采に聞こえるから。
トリマーの微かな振動を感じながら、
図々しさの刃先が、今日も見当たらない。
ラベル: 好きな音楽

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