1/28/2014

密室ポップ、漏洩中──


   昨年の秋に買い替えた軽自動車には、
iPodが差し込めるオーディオがついている。

 それが決め手だったわけではないけれど、
せっかくだし──と、
ある日ふと古いiPodを引っぱり出した。

 ごく自然な流れで再生されたのは、
きゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」─。

なにしろ、あれは完璧にできている。
音も、声も、振付も、すべてが
一度きりのバランスで構成された、
無垢なのに、どこか過剰なポップの結晶。

それが車内に満ちると、不思議と元気になる。
日常のホコリが音圧で吹き飛ぶようで、
気づけば、また再生していた。

もちろん、おじさんが
「PONPONPON」を爆音で流す姿は、
世間的にはちょっと致命的だとわかっている。
だから、ウィンドウ──つまり社会の窓は、
きっちり閉めていた。
──つもりだった。

ある日、
信号待ちで横に並んだ車の助手席から
女子高生がこちらを見たような気がした。
視線がぶつかったわけでも、
笑われたわけでもない。

ただ、その一瞬の沈黙で、ふと気づいてしまった。

──あれ? 漏れてる?

軽自動車の装甲は思ったより薄かった。
ドアの隙間から、
PONが漏れていたのだ。
PONが。
PONが、世界にこぼれていた。

背筋がすうっと冷えた。

ぼくが閉じていたのは、音じゃなく、幻想だった。
そのことに、ようやく気づいた。

それからしばらく、無音のドライブをした。
しかし一週間も経たないうちに、
PONはまた、そっと再生された。
音量は、ひとつ下げた。
◆pon pon pon
噛まずに完璧に歌えるのですよ。
……だから何? って話なんですけどね。

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