7/27/2013

アベ花


   今年も、安倍川の向こうで花火が上がった。
地元では「アベ花」と呼ばれるその音を、
六年ぶりに、家の中で遠くから聞いた。

行かなかった。
理由はいくつか挙げられるが、
どれも決定打ではない。

人混みのあとに続く、決まった流れ。
同じ店、同じ顔、同じ会話。
酔いに任せて笑い、
翌日には何も残らない夜。
そうした様式から、今年は距離を取りたかった。

もっと現実的な話をすれば、
来月の名古屋行きを考えての節約でもある。
花火一晩分の出費を、
新幹線の切符に回した。

名古屋に、会いたい人がいる。
気楽な関係でも、未来の話でもない。
ただ、顔が好きで、
少し離れた場所から存在を確かめたい、
それだけの相手だ。

近くにある選択肢より、
わざわざ遠くを選ぶ。
合理的ではないし、
自分でも少し可笑しいと思う。
それでも、
繰り返してきた地元での接触より、
距離と時間をかけて向かう視線のほうが、
まだ誠実に思えた。

思い返せば、
六年前のこの時期も、
似たような高揚と失速を経験している。
痛い思いもした。
学んだつもりでもいた。

それでも、
同じ季節になると、
同じようなことを考えている。

遠くで花火が弾け、
低い音だけが腹に残る。
今年は、その音を聞くだけでよかった。

結局、
相変わらず懲りていない。
相変わらず、少し間の抜けた選択をする。
それでも、
この距離感でしか保てない自分がいる。

ラベル:

頁のはじめへ