安倍川花火大会を退会する
今年も、安倍川の夜空に花火が上がる。
地元では「アベハナ」と呼ばれるその催しは、
毎年、夏の終わりを告げる
合図のように、人を河川敷へと集める。
かつては、僕もその中にいた。
友人と待ち合わせをし、浴衣の裾を気にしながら、
屋台の灯りの下を歩いた。
その夜の様子は、だいたい決まってSNSに載せた。
人並みの夏を過ごしている、
という証明のようなものだったのかもしれない。
だが今年は、行かない。
特別な理由があるわけではない。
体調でも、忙しさでも、反抗でもない。
ただ、足が向かなかった。
誰かに見せるための夜から、静かに離れたいと思った。
写真に残さなくても、言葉を添えなくても、
過ぎていく時間は、ちゃんとそこにある。
花火の音は、きっと家まで届くだろう。
遠くで、低く、腹に響くような音。
見なくても、夏が来て、夏が終わることは分かる。
誰かの輪に入らず、
誰かの記憶にも残らず、
今年の夏を、自分のところで終わらせる。
それは主役を降りるというより、
最初から舞台に上がらない選択だ。
観客席でもなく、照明の外で、
季節が過ぎるのを見送る。
そういう夏が、一度くらいあってもいい。
ラベル: 長い文章

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