3/24/2013

使い古しの端末が、もう一度声を持つとき──commという静かな革命──


   流行の波に乗り遅れたアプリが、
ある日、生活の風景を静かに変えることがある。

「comm」と聞いて、
すぐに思い浮かぶ人は多くないだろう。
少なくとも、僕のまわりでは誰も使っていない。

LINEが席巻するこの時代に、
commは、路地裏にひっそり残る喫茶店のような存在だ。
目立たないが、
一度入ると妙に落ち着く。

そんなcommが、
先日のアップデートで、少し面白い変化を見せた。
ひとつのアカウントで、
複数の端末を同時に使えるようになったのだ。

古い端末を手放せずにいる者にとって、
これは、はっきりとした変化だった。

たとえば、使い古したiPhone 4。
回線契約は切れているが、
Wi-Fiさえあれば、まだ役目は残っている。

自宅では無線につなぎ、
外ではポケットWi-Fiを持ち歩く。
それだけで、通話は成立する。
iPadでも、iPod touchでも、
同じアカウントが、そのまま使えた。

Wi-Fi越しの通話品質も、
思ったより悪くなかった。

この変化は、
端末の寿命を延ばす、という話だけではない。
使われなくなっていた機械に、
もう一度「声」の居場所を与える。

SoftBankのホワイトプランでは、
通話料が積み重なる。
docomoユーザーが多い環境では、
キャリアの違いが、
そのまま会話の距離になることもある。

commは、その壁を越える。
無料で、静かに、確実に。

もちろん、LINEの存在感は圧倒的だ。
もし同じことが、
最初からそこにあったなら、
多くの人は迷わずそちらを選ぶだろう。

それでも、
流行の陰でcommのようなアプリが、
使い古しの端末に、
もう一度役割を与えている。

それは、
都市の片隅で、
気づかれないまま灯りがともるような、
控えめだが、確かな美しさだ。

ラベル:

頁のはじめへ