3/31/2013

「シー・シー・シー」──奥歯に残る昭和のグルーヴ

 その音は、
昭和43年の街角に差し込んだ音、
というより、
そこに元からあったノイズのようだった。

ザ・タイガース「シー・シー・シー」──。

若い人は「静かにして」と受け取り、
ある程度の年齢になると、
なぜか奥歯の感触を思い出す。
画面の中で、
若き岸部修三――のちの岸部一徳が、
ベースを抱えて立っている。

主役というほど前には出ていない。
だが、音だけは確かにそこにある。

指先が弦に触れるたび、
時代の埃が少しだけ浮き、
すぐにまた沈んでいく。

ドラムの瞳みのるに
ピントが合いきらない。
それも含めて、
そういう映像だった。

若い岸部は、
今ほどの渋みも、
俳優としての顔も、まだ持っていない。

それでも、
ベースを弾いているその瞬間だけは、
不思議と目が離れない。

今の岸部一徳は、
軽さと重さの両方を知った
ちょうどいい大人になった。

そこに憧れというほどの感情はない。
ただ、
こういう立ち位置もあるのだと、
静かに確認している。

ベースギターを買うかどうかは、
正直どうでもいい。

あの音と音の間に
身を置くことができれば、
それで十分だ。

「シー・シー・シー」は、
今もどこかで鳴っている。

都市の奥歯に、
まだ少し残ったまま。

ラベル:

頁のはじめへ