TIFFANY☆1837 ゴールドリング
昔、少し扱いづらい知り合いの女性がいた。
素朴そうに見えるのに、ときどき場慣れした影がさす。
あの曖昧さに、こちらのほうが
勝手に距離を測りかねていた。
ある日、彼女は「サブ」携帯のアドレス帳を広げて見せた。
メッシー用、暇つぶし用。
短い名前だけが、用途別に整然と並んでいる。
そこには「あ」と「う」——。
たぶん本当は、青木とか、内田とか、
それぞれの親が時間をかけて
名付けた名前があったはずなのに、
最初の一音だけ残して切り落とされていた。
名札ではなく、音の残骸。
ちなみに僕は、その携帯の中にはいない。
ただ、他の女性たちのあいだで
「定期便」と呼ばれていたらしい。
需要と供給の周期で、呼び名が決まるのだという。
——妙な産業だと思う。
そのことは、彼女には言わなかった。
ろくなことがなさそうだったので、黙っておいた。
女というのは、淡々としていてこわい。
いつだって、感情を付け足しているのは、こちらの側だ。
別の女性から、オークション出品を頼まれたことがある。
パソコンを持っているだけで、
便利係のように扱われていた頃だ。
箱に貼られた保証書の日付が、
彼女の誕生日にぴたりと重なっていた。
TIFFANY、1837のゴールドリング。
出品画面の白い光を浴びると、金は案外ひっそりしている。
ただの金属なのに、こちらのほうが勝手に気まずくなる。
作業中、笑っているつもりだったのに、
いつのまにか呼吸だけが忙しかった。
女性というのは、やっぱりこわい。
気張って贈り物なんかしないほうがいい。
猫なで声の「ありがとう」のあと、
その指輪はきっと、迷いなく質屋かオークションへ向かう。
あの頃の僕は、じつに変な立ち位置にいたと思う。
いまも、たぶんその続きにいる。
ただ、昔ほどの鈍さはない。
それでも別に困っていないあたりが、また妙だ。
そんなふうに思う日が、ある。
ラベル: 日記

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