行かなかった映画、行った映画
映画の話を、先にしたのは僕だったと思う。
「一緒に映画を観に行こう」という言葉を、
最初に受け取ったのが僕だった。
作品は『テルマエ・ロマエ』だった。
内容よりも、誘い方が妙に現実的だった。
文字ではなく、
声で、少し距離のある耳元から届いた。
約束はした。
だが、実現しなかった。
仕事の都合が合わず、
上映期間はそのまま終わった。
行かなかった映画のことは、
思いのほか長く残った。
観ていないのに、
途中で止まったままのようだった。
しばらくして、
今度は僕のほうから声をかけた。
相手は別の人で、
映画も別だった。
「ヘルタースケルター」─。
一人で観るには少し重く、
誰かと並んで観るには、
ちょうどいいと思った。
今度は、実現した。
同じ時間に、同じ場所へ行き、
同じスクリーンを見た。
誘われた映画と、
誘って観た映画。
大きな違いはないはずなのに、
自分の中では、
わずかに重さが違っていた。
その差が何だったのかは、
今もはっきりしない。
ただ、
行けなかったあの一本が、
小さな序章だったかもしれない。
ラベル: 長い文章

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