デコらない爪
ある習慣に、ふと飽きが差した。
そんな夜更け、気まぐれにmixiの画面を開く。
ここしばらくは、早寝早起き。
週に二度は休肝日。
まるでNHKの健康特集みたいな生活だった。
悪くはない。
けれど、どこか熱の
抜けた規則正しさに、かすかな倦怠が混じっていた。
最近、よく聞く。「イソガシクテ…(笑)」
あの、カッコワライ。
見え透いた言い訳にも
ならないくせに、そこら中に転がっている。
「ワーカホリックはバーカホリック」──
そんな言葉遊びで気を紛らわせても、
乾いた笑いが頬の奥でひびくだけだ。
ふと鏡を見る夜だった。
鼻の毛穴が妙に気になる。
ドラッグストアの秋の特売で買った
黒いパックを取り出し、一枚だけ、と気まぐれに貼る。
ついでに、mixiモバイルを開いてみた。
「アプリの招待がありんす」
『恋してキャバ嬢』──
名前だけで胸焼けしそうなタイトルだ。
それでも、なんとなくクリックしてしまう自分がいる。
……面白い。
仕事を忘れてしまいそうなほどに。
でも、現実はケータイすら満足に触れない日々。
そのもどかしさすら、いまは少し心地よく感じている。
PCからアクセスできたらと思うこともある。
けれど、くだらぬ通話から
距離を置けている今が、案外悪くない。
ようやく健康と呼べる自分に近づけた気がする。
もちろん、失言にうなされる夜もある。
「ぁぁ……」と、風呂場で蒸されるような後悔。
だが、それも三分と持たない。煙のように消えていく。
あとはまた、図太く生きていける。
声をかけたい相手には、ちゃんと声がかけられる。
悩む時間がないというのは、一種の幸福なのかもしれない。
けれど、修行のような時間は確かに存在している。
どんなに忙しくても、どんなに眠くても。
二日に一度は、夜と朝の狭間で、
135ミリの望遠レンズのような孤独と向き合う。
絶頂のあとの空虚のなか、『小悪魔ageha』をめくる。
これは、苦行だ。
金箔を貼った新興宗教のパンフレットのようなまぶしさ。
それでも、ページの隙間に視野の種が眠っている気がする。
目先の「効率」ばかりを追っていては、
心まで緑内障になってしまう気がするのだ。
今の自分には、いびつな自信がある。
それは誰にでも与えられる
ものではない、どこか壊れかけの形をした自信。
その自信が、胸の奥でなにかをふくらませ始めている。
最近、ひとりの女の子が気になっている。
顔立ちは今風。けれど、爪はまったく飾っていない。
「なんで、ツメが甘いの?」
「昼間、重たい楽器を運んでるから」
その言葉の裏側に、にじむような誠実さがあった。
惹かれてしまったのだ。
その顔が、歪む瞬間を見たいと思ってしまった。
欲望と妄想が、音もなく、胸の奥でふくらんでいく。
民法と民放が、僕を現実に引き戻す。
それでも時々、どこか遠くへ、彼女を連れて行けたら──
そんな夢想にふける夜がある。
行ってみたい。
危うい夢の先に、どんな夜が待っているのか。
「カッコワルイ」と、ひとりで笑っている。
夜の静けさのなかに、ひとつ、
くぐもった笑い声がまぎれている。
ラベル: 長い文章

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