陰気くんの観察日和
「いじくりまくり」
曇天。終日ネット。
夕方、少しだけ外に出たが、
それも一瞬だった。
帰ってきたら、目が赤い。
見事に充血している。
が、あまりにも
時間があり余った暇状態なので、
この日記帳をあれこれ
いじくっていた。
訪問者は皆無なのに、
カウンターをつけてみたり、
ゲストブックを試してみたり。
――何やってるんだろう、僕。
でも、意外と楽しい作業だった。
パズルのような、
ちょっとした図画工作のような。
普段は使わない脳の部分が、
そこだけ明かりを灯している。
もっと、いじってみよう。
風変わりなホームページを作ってみたい。
既成概念にあまり囚われず、
少しずつ、ゆっくりと。
親父が友人と和歌山へ
旅行に出かけた。
帰ってくるのは
火曜日の夜らしい。
饒舌な人がいない家は、
不自然なくらい静かだ。
男は僕一人。
いや、犬もいたな、
オスだった。
母と妹の声に、
やや押され気味な僕。
男は、つらい。
2001年10月22日(月)
「無題」
書くことがない。
うん……悲しいな。
静岡新聞の「大自在」は、
なぜか毎日読んでしまう。
あのコラムはすごいと思う。
毎日、あれだけの文字を
絞り出すのは大変なことだ。
天気は曇りから雨。
朝のSBSラジオの天気予報は、
僕にとって携帯電話並みのインフラだ。
ほとんど依存といっていい。
逃すものかと耳を澄ます。
今日もラジオの向こうで、
天気が読み上げられていく。
車で行って良かった。
バイクだったら濡れていた。
書くことがない。
うん……悲しいな。
2001年10月23日(火)
「御手洗、あるいはおとこおんな」
今日は妙に暑かった。
霜どころではない。
背中をつたう汗が、
季節の感覚を狂わせる。
衣服の選び方が難しい。
季節が思い出し笑いのように戻ってくる。
でも、嬉しいことが二つあった。
▼一つめ。
夕食がスパゲッティだったこと。
山盛りのオレンジ色の
ミートソースに、思わず目を細める。
かつてはケチャップをまぶすタイプの
喫茶店ナポリタン派だったけれど、
いまは断然ミートソース。
嗜好というものは、
年齢とともに静かに移ろっていく。
いつかは、豚の脂身ですら、
うまいと思う日がくるのだろうか。
▼二つめ。
日記を公開にしてから、
初めて知らない女性からメールが届いた。
僕の1ヶ月分を読んでくれたという。
一瞬、何か文句でも
書かれてるのかと身構えたが、
ほとんどが好意的な内容だった。
正直、ほっとした。
僕のこの一日一文は、
街角の公衆トイレの壁に
たまにある落書きのようなものだと思っている。
誰にも読まれないかもしれないし、
読むことで気分を害する人も
いるかもしれない。
でも、そういうところにしか
文字を置けない人間も、いるのだ。
スカパーで
『眠狂四郎無頼控・魔性の肌』を観た。
お色気と虚無が共存している映画。
僕はこういうのが好きだ。
たぶん、他人からは、しかめっ面される
タイプの人間なのだろう。
でも、ジメジメしたものを
好むのだから、しかたがない。
明日もまた、十人十色の
世界と向き合うために。
寝ることにする。
おやすみ。
2001年10月24日(水)
「鋭い軽さ鈍い重さ」
天気晴れ。
今日の作業は、
地味で、単調で、
それでも妙な集中力を要した。
なにかを整えて、
洗って、揃えていく。
黙々と作業するうちに、
言葉は頭の中から
静かに姿を消していった。
手と目が、ささやかな律動を刻む。
僕の勤める会社は、ものをつくっている。
工芸品、とだけ言っておこう。
製造の過程は、お祭りの裏方のように、
人知れず慌ただしい。
汗と微笑のあいだで、
何かが淡々と流れていく。
でも、悪くない。
イヤなことも忘れられるし、
時間の経過も早い。
ただ、腕は筋肉痛だ。
中島誠之助さんがいたら、
たぶん言ってくれると思う――
「いい仕事してますね」って。
日記に批判のコメントが届いた。
でも、僕は変えるつもりはない。
この日記は、僕の
陰気ワールドの一部であり、
読まれなくても書き続ける類のものだ。
世界は十人十色。
それが世の中の
おもしろいところで、
難しいところでもある。
サーカスのピエロが好きだ。
メインとメインの隙間をつなぐ、
あの孤独な道化。
何でもない顔をして、間を保つ。
僕の日記帳も、そんな
役割を担ってくれればと思う。
「あなたのネットサーフィンの合間に、
ほんのひとときでも、
やわらかな気配が生まれるなら──
これ以上の幸いはありません」
「Oさんのこと」
ウェブログ、久しぶりの更新。
書く力は、相変わらずどこかへ置いてきたままだ。
ただ、どうしても今日は、
少しだけ書きたくなった。
昨日、Oさんが定年を迎えた。
僕にとっては、ただの上司ではない。
丁寧な説明、的確な助言、
そして冗談のセンス。
馬鹿な僕でも、Oさんの話は
いつも腑に落ちた。
「ひとつの時代が終わった」
社長が朝礼でそう言った時、
めずらしく僕も頷いた。
リストラ寸前の僕に、Oさんはわざわざ来て、
深々と頭を下げてくれた。
「陰気くん、お世話になりました」
その言葉は、僕が言うべきものだったのに。
Oさん。僕がこの先、
またどこかでくじけそうになったら、
あなたのあの言葉を思い出します。
「がんばって、陰気くん」
お世話になりました。
ラベル: 再掲載「赤い日記帳」



















