CHANELは僕を選ばなかった
「頬骨の高さとラグジュアリーの距離感」
「僕とCHANELと、ほんの少し世界が変わる話」
「私の頬骨が、もう少し低かったら。
世界がちょっとだけ違って見えるかもしれない——」
これは、大塚美容外科のテレビCMの声だ。
何年も前から、記憶の片隅に居座っている。
もちろん、骨格ひとつで世界が変わるはずもない。
けれど「ちょっとだけ」という言い回しには、
どうしようもなく共感してしまう。
さて、今日はサングラスの話だ。
特別に好きというほどではないが、
いつの間にか数本は持っている。
眼鏡よりもコンタクトを選ぶようになったのも、
きっとそのせいだろう。
眼鏡の上から掛けるには、
サングラスは少々わがままな形をしているから。
三年ほど前のことだった。
雑誌で見かけたCHANELの
サングラスに惹かれ、通販で注文した。
型番4017D。大きめのフレーム、
グラデーションのレンズ、横には例のCCマーク。
「大人の目元にラグジュアリーを」
という惹句が添えられていた。
男女兼用とあったし、
当時は今よりずっと気楽に構えていた。
届いた品は、たしかに良かった。
ケースも立派で、曲線も美しかった。
掛けた瞬間、目元に
上質な影が落ちたような気さえした。
——最初の三分間は。
だがすぐに、頬骨の上で
フレームが固定されているだけだと気づいた。
三十分もすれば、皮脂がじわりとレンズを曇らせる。
シャネルのサングラスのはずが、
僕に見せてくれるのは自分の脂のにじんだ世界だった。
要するに、この顔の角度には合わなかったのだ。
高い頬骨、低い鼻、やや大きめの顔。
それらが揃えば、
西洋のサングラスはどこか窮屈になる。
美しいカーブを描いたスポーツカーが、
いきなり未舗装の農道に乗り上げたようなもの。
衝撃はするどく、乗り心地はよろしくない。
三万円ほどの授業料で、僕は学んだ。
サングラスを買うときは必ず試着すること。
そして、自分の顔と折り合いを
つけて生きるしかないということを。
頬骨がもう少し低かったら。
顔がもう少しコンパクトだったなら。
あのレンズも、もう少し
やさしく目元を包んでくれたかもしれない。
だが現実は変わらない。
今日もまた、曇りかけた
レンズを拭きながら暮らしていく。
ラベル: 長い文章


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